大学4年生になって、怖い先生という噂のあった河田敬義先生のゼミを選びました。そこで先生の専門外にもかかわらず、当時始まったグロタンディーク(※1)の理論の入門書をテキストにして勉強することになりました。当然分からないところが出てくるわけで、先生に質問すると「そうですねぇ〜」なんて言って、答えてくれないわけです。その時に「先生はこの理論について何も分かってないんだ!」と気付いたんです。今になって、私が学生に教える立場になって思うのですが、自分の知らないことについてゼミで指導するのは本当につらいことなんです(笑)。それでも学生たちがやりたいと言ったことに河田先生は取り組んで下さったのでした。そんなこともあって、数学は自分で勉強するものなんだという考えを強く持ちました。 ちょうどこの時代はセール、グロタンディークといった人たちが代数幾何学の抽象化に取り組んだ時期にあたりまして、スキーム理論が出てきていました。そこでこのスキームについて勉強してたのですが、日本ではまだ誰も取り組んでいないような分野でしから勉強してるだけでパイオニアという感じでした。 大学院に入ってから、さっき出てきた小平邦彦先生の具体的な複素多様体研究の流れ、グロタンディークをはじめとする抽象的な流れ、ザリスキー(※2)の古典的な代数多様体研究の流れといった3つの流れを踏まえて、代数曲面の分類理論をスキームの立場で高次元化するといったことを研究しこれが学位論文になりました。
世に言われる「飯高プログラム」というのは高次元の代数多様体に対して種数(※4)を定義してその種数を基準に分類しようとする試みです。ここで種数という概念が大切なわけだけれど、実は種数については高校生の時から興味を持っていたんです。フェルマーの最終定理っていうのがありますよね。あれは整数についてですけど、若手のホープであった久賀道郎先生が「フェルマーの最終定理の多項式バージョン知ってる?」と聞いてきたんです。その時私は天啓のようなひらめきがあり種数を引き合いに出せば、多項式版フェルマーの最終定理を証明できると気がつきました。そんなことがあって、種数の威力のようなものを思い知りまして、種数を基準にして考えれば複雑な対象である一般の代数多様体であっても分類できるんじゃないか、ということを考えました。